企業の持続的な成長には、新規顧客の獲得と既存顧客との関係強化の両方が欠かせません。
その中でも特に注目すべき指標が、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)です。LTVは、一人の顧客がもたらす生涯の価値を数値化したものです。
しかし「具体的な計算方法がわからない」「どんなツールを活用すべきか迷う」などの疑問を感じている方も、多いのではないでしょうか。
本記事では、LTVの基本から具体的な向上施策、活用すべきツールまで、実践的な内容を解説します。
新規顧客の獲得コストが上昇し、競争が激化する今だからこそ、LTV向上は大切な取り組みです。
顧客との関係強化を目指す方は、ぜひ最後までお読みください。
LTVとは?
LTVとは、一人の顧客が取引開始から終了までの期間に、企業にもたらす利益の総額を表す指標です。
企業の持続的な成長には、新規顧客の獲得だけではなく、既存顧客との長期的な関係構築が欠かせません。
その関係性を数値化したものが、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)です。
近年、この指標が注目される背景には、主に以下のような理由が挙げられます。
データ分析技術の進歩 | 顧客一人一人の行動が追跡可能に購入履歴やサービス利用状況の詳細な分析が容易にAIによる将来予測の精度向上 |
顧客獲得の難化 | 広告費用の高騰競合の増加による獲得競争の激化プライバシー規制強化による広告効果の低下 |
カスタマーサクセスの重要性 | 顧客との継続的な関係構築の必要性解約防止の重要性増加顧客満足度向上への注目 |
例えば、月額サブスクリプション型のSaaSでは、基本料金だけを利用する顧客よりも、オプションサービスも活用する顧客のほうがLTVは高くなります。
また、ECサイトでは、1回だけの購入者より、定期的に商品を購入する顧客のほうが、企業に大きな価値をもたらします。
このように、既存顧客のLTVを向上させる取り組みは、企業の売上向上に欠かせないマーケティング活動の一つです。
LTVの計算方法
LTVの計算方法は、ビジネスの形態によって異なります。
まずは基本的な考え方から確認しましょう。
LTVは「1人の顧客からどれだけの利益が得られるか」を計算する指標です。
そのため、以下の3つの要素を考える必要があります。
- 購入金額(顧客が支払う金額)
- 購入回数(何回商品を買ってもらえるか)
- 取引期間(何年間取引が続くか)
この要素を踏まえた上で、それぞれのビジネスモデルごとの計算式を確認していきましょう。
■小売店・ECサイトの場合
実店舗やECサイトなど、顧客が商品を購入する度に売上が発生するビジネスで使用する計算方法です。
1回の購入金額と、どのくらいの頻度で購入してもらえるかがポイントとなります。
LTV=購入単価×購入回数×継続期間 【計算例】・1回の買い物⇒10,000円・年間の来店⇒5回・購入期間⇒5年間LTV=10,000円×5回×5年=250,000円 |
■月額サービスの場合
動画配信サービスやジムなど、毎月決まった金額を支払うビジネスの計算方法です。
月額料金と、どのくらいの期間継続してもらえるかがポイントです。
LTV=平均購入単価×粗利率÷解約率 【計算例】・月額料金⇒5,000円・利益率⇒30%・月間解約率⇒2%LTV=5,000円×30%÷2%=75,000円 |
■法人向けビジネスの場合
企業間取引における計算方法です。
取引額が大きい分、利益率と継続年数が大切なポイントとなります。
LTV=年間取引額×収益率×継続年数 【計算例】A社との取引・年間取引⇒100万円・利益率⇒30%・取引期間⇒2年間LTV=100万円×30%×2年=60万円 |
このように、自社のビジネスモデルに合わせて適切な計算方法を選択する必要があります。
まずは簡単な方法から始めて、徐々に精度を高めていくと良いでしょう。
LTV向上による効果
LTV向上は、企業の収益性と安定性を改善する効果があります。
その理由は、新規顧客の獲得コストが既存顧客の維持コストと比べて約5倍もかかるためです。
LTV向上により、期待できる具体的な効果は以下のようなものが挙げられます。
営業コストの削減効果 | 新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持コストの約5倍既存顧客重視で大幅なコスト削減が可能広告費用の効率的な活用につながる |
安定した収益基盤の構築 | 既存顧客からの継続的な収入確保売上予測が立てやすく、計画が立案しやすい景気変動の影響を受けにくい収益構造の実現 |
優良顧客の特徴把握 | 最初の購入のきっかけ継続利用の理由よく利用するサービスの組み合わせ |
例えば、月額1万円のサービスを提供する企業の場合、新規顧客の獲得に5万円のコストがかかるのに対し、既存顧客の維持には1万円のコストで済みます。
既存顧客のLTVを高めることで、新規獲得に比べて低コストで収益を上げられるでしょう。
このように、LTV向上は企業の長期的な成長と安定性に直結する取り組みです。
特に競争が激化する現代のビジネス環境では、その重要性は一層高まっていくでしょう。
LTVを向上させるための6つのポイント
LTVを向上させるためには、以下のようなポイントを意識するといいでしょう。
- 獲得コストと維持コストを削減する
- 平均購入単価を上げる
- 購入頻度を向上させる
- 継続期間と維持率を高める
- 離脱率を減少させる
- 獲得顧客数を増やす
それぞれ詳しく説明します。
獲得コストと維持コストを削減する
LTV向上には、顧客獲得と維持にかかるコストの削減が不可欠です。
いくら売上が増えても、獲得・維持コストが膨らめば、実質的なLTVは向上しません。
そのため、以下の3つの観点からコスト削減を検討する必要があります。
- 顧客獲得時の広告・営業コスト
- 顧客対応の人件費・運営コスト
- 継続的なコミュニケーションコスト
コスト削減の手法として、デジタルツールの活用を検討するのも良いでしょう。
デジタルツール活用の例には、以下のようなものが挙げられます。
- CRMシステムによる顧客情報の一元管理
- マーケティングオートメーションによる配信作業の自動化
- チャットボットによる問い合わせ対応の効率化
適切なデジタルツールの選択と活用により、コスト削減を目指しながら顧客との関係性を構築する必要があります。
コスト削減と顧客満足度の向上、この2つのバランスを取ることがLTV向上のためには大切なポイントです。
平均購入単価を上げる
LTV向上の即効性のある方法として、平均購入単価を上げることが効果的です。
平均購入単価の向上は、短期的な収益改善だけでなく、長期的なLTV向上にも直結します。
この実現には、主に以下の3つのアプローチが有効でしょう。
アップセル | より上位の商品購入を促す |
クロスセル | 関連商品の併買を提案する |
商品の付加価値向上 | 商品自体の価値を高める |
例えば、パソコンを購入する顧客に、より高性能なモデルや関連する周辺機器をレコメンドすれば、1回の購入での売上を高められるでしょう。
顧客のニーズに合わせた適切な商品提案により、顧客満足度を維持しながら平均購入単価を向上させることが可能です。
購入頻度を向上させる
LTV向上のためには、顧客の購入頻度を高めることが大切です。
購入頻度の向上とは、顧客の購入間隔を短くすることを指します。
そのためには、顧客との接点を増やし、適切なタイミングで商品やサービスを提案する必要があります。
購入頻度を高めるためには、以下のような施策を検討してみましょう。
- 定期購入プランの提供
- ポイントプログラムの導入
- ステップメールの活用
- タイムリーな情報発信
例えば、化粧品の通販では、使用期間に合わせた定期購入プランを提案すれば、顧客の継続的な購入を促せるでしょう。
顧客のライフサイクルに合わせた適切な提案により、自然な形で購入頻度を向上させることが可能です。
継続期間と維持率を高める
LTV向上の要素として、顧客の継続期間を延ばし、維持率を高めることが挙げられます。
長期間継続して利用する顧客は、高いロイヤルティを持つようになり、企業にとって以下のようなメリットをもたらします。
- 競合への乗り換えが少ない
- 自発的な推奨による新規顧客獲得
- 安定的な収益基盤となる
例えば、動画配信サービスでは、利用期間に応じて特典を増やしたり、オリジナルコンテンツを提供したりすれば、長期継続を促進できるでしょう。
継続的な価値提供と適切な特典設計により、顧客との長期的な関係構築が可能となります。
それが結果として、安定的なLTV向上につながります。
離脱率を減少させる
顧客獲得数を増やしても、離脱率(解約率)が高ければLTVの向上は望めません。
そのため、離脱率の低下は課題の一つとなります。
離脱率を下げるためには、獲得時点からの適切な施策が必要です。
具体的には、以下のような施策が考えられます。
- 適切なターゲット選定
- 顧客特性の分析
- 不満要因の把握と改善
例えば、フィットネスジムの場合「健康維持のために定期的な運動を望んでいる顧客」と「短期的な目標のためだけに入会する顧客」では、継続率に差が出ます。
初期段階で適切なターゲットを見極めることで、長期的な関係構築が可能となるでしょう。
顧客理解を深め、適切な対策を講じることで、離脱率を抑制し、LTVの向上につなげられます。
獲得顧客数を増やす
既存顧客の維持だけではなく、新規顧客の獲得もLTVを向上させるためには必要です。
特に、将来の優良顧客となる可能性の高い顧客を獲得する必要があります。
優良顧客の共通点には、以下のような点が挙げられます。
- 商品・サービスへの高い理解度
- 明確な利用目的の存在
- 長期的な活用プランの保有
例えば、オンライン英会話サービスで高い継続率を示す顧客は「キャリアアップのために計画的に学習を進めたい」というニーズを持っていることが多くあります。
このような特徴を理解すれば、効率的な新規顧客獲得が可能となります。
既存の優良顧客分析を活用した新規顧客獲得により、将来的なLTV向上が期待できるでしょう。
LTV向上に役立つツール
CRMツールで顧客関係を強化する
LTV向上には、顧客情報を一元管理できるCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)ツールの活用が有効です。
CRMツールは、顧客に関するあらゆる情報をパソコンで管理できるシステムです。
例えば営業担当者が顧客と話した内容や、カスタマーサポートでの対応内容など、これまで個人や部署ごとにバラバラに管理していた情報を一つにまとめることができます。
CRMツールでは、以下のような情報を管理できます。
- 顧客の基本情報(名前、連絡先など)
- 購入履歴データ(いつ、何を買ったか)
- 問い合わせ履歴(どんな相談があったか)
- 対応記録(どう解決したか)
「先日相談した件について」と問い合わせがあった場合、CRMツールで過去の記録を確認し「あの時の件ですね」とスムーズに対応できるでしょう。
これにより、顧客の信頼も高まることが期待できます。
CRMツールは顧客との過去のやり取りを「記録」し「共有」する仕組みを提供してくれます。
この仕組みが顧客対応を改善し、LTVの向上につなげられるでしょう。
MAツールでマーケティング活動を自動化する
LTV向上には、MA(Marketing Automation:マーケティング自動化)ツールの活用が効果的です。
MAツールは、顧客への情報発信や分析などのマーケティング活動を自動で行うシステムです。
例えば、新規顧客の獲得から見込み顧客の育成まで、これまで人が手作業で行っていた作業を自動化し、より効率的に進められるようにできます。
MAツールでできることとしては、以下のようなものがあります。
- 顧客の行動に合わせた最適なメール配信
- Webサイトでの閲覧履歴の分析
- 顧客の興味に応じた商品提案
- 施策の効果測定
例えば「商品を買う前に、まずは詳しい情報が欲しい」という顧客には商品説明を提供すると良いでしょう。
一方「価格を比較検討している」という顧客には割引情報を送るなど、顧客の状況に合わせて適切な情報を自動で届けることが可能です。
MAツールは「適切なタイミング」で「適切な情報」を「適切な顧客」に届けることを可能にし、LTV向上の実現をサポートしてくれるでしょう。
チャットボットによる効率的な顧客対応をする
顧客対応の効率化と満足度向上には、チャットボットの活用が効果的です。
チャットボットは、AIを活用した自動会話システムです。
人に代わって24時間365日、顧客からの問い合わせに対応できます。
チャット(会話)とロボットを組み合わせた技術です。
チャットボットの主な特徴は、以下のとおりです。
- 事前に用意した回答で素早く対応
- 簡単な質問は即座に解決
- 24時間いつでも対応可能
- 気軽に質問できる環境を提供
例えば「商品の発送状況を知りたい」「よくある質問を確認したい」といった簡単な問い合わせであれば、即座に回答可能です。
顧客は電話をかける手間なく、必要な情報を得られます。
チャットボットは顧客対応の効率化だけでなく、顧客の利便性も高めてくれます。
結果として、顧客満足度の向上とLTVの増加につながるでしょう。
まとめ
LTV向上は、企業の持続的な成長に欠かせない取り組みの一つです。
顧客との長期的な関係を構築し、その価値を最大化するためには、まず正確なLTV計算による現状把握が必要です。
その上で、獲得コストと維持コストの削減、平均購入単価の向上、購入頻度の改善、継続期間の延長、離脱率の低下など、複数の視点からの施策の実施が有効でしょう。
また、新規顧客の獲得でも、既存の優良顧客分析を活用すれば、より効果的なアプローチが可能となります。
これらの取り組みをより効率的に進めるためには、CRMツールやMAツール、チャットボットなどのデジタルツールの活用も検討するのも一つの方法です。
ただし、ツールはあくまでも手段です。
顧客のニーズを理解し、適切な価値を提供し続けることで、LTV向上につながります。
企業の成長には、新規顧客の獲得と既存顧客の維持、この両輪のバランスが大切です。
LTV向上を意識した戦略立案により、持続可能な事業成長を実現できるでしょう。